高額療養費制度改定への反対は医療機関へのカスハラである

医療従事者の視点

高額療養費制度を皆さんはご存じでしょうか。

一昔前なら知らない人が多かったかもしれませんが、現在は知っているという方が増えているのではないでしょうか。制度を利用したことがあるという方もきっと多い。

さらに今年に入って大きく話題に取り上げられているため、より認知度が上がったかなと思います。

高額療養費制度とは、厚生労働省のホームページにて、以下のように記載されています。

高額療養費制度について

医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月(歴月:1日から末日まで)で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する「高額療養費制度」(こうがくりょうようひせいど)があります。

上限額は、年齢や所得に応じて定められており、1いくつかの条件を満たすことにより、負担を更に軽減するしくみも設けられています。

全ての方が安心して医療を受けられる社会を維持するために、高齢者と若者の間での世代間公平が図られるよう、負担能力に応じたご負担をいただく必要があります。

引用:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html

端的に言うと、同一月に支払った医療費が一定の金額(自己負担限度額)を超える場合、超えた分をあとから返金してもらえるということです。

自己負担限度額は世帯収入によって決められていて、収入が高いほど限度額は高くなります。

同じ100万円分の医療行為を受けたAさんとBさんがいたとして、住民税非課税世帯のAさんの自己負担は3万5千円くらいで、年収約1160万円以上のBさんは28万円くらいになるという感じです(これはあくまでも例で、実際の金額ではないので注意してください)。

そしてこの自己負担額の引き上げを、今年に入って言い出したのが石破総理大臣。

私は率直に賛成。

ですが、世論はそうではありませんでした。多くの抗議活動が行われ、政府は結局これを先延ばしにすることとしました。

ではなぜ私は賛成なのかというと、自己負担額の引き上げに反対することは、医療機関へのカスタマーハラスメントだと思うからです。

自己負担額の引き上げが実行されないということは、国が負担する医療費は抑制されないということです。減らせない、現状維持というのであれば、まだ何とかなるかもしれませんが、実際には医療費は年々上がり続けています。

引用:厚生労働省「令和4年度(2022年度)国民医療費の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/22/dl/data.pdf

そしてこれを放っておけば、日本の財政は危機的状況に陥ります(政府の出している数字が正しいことを前提として)。

では日本が財政破綻しないよう、政府はどうやって医療費を削減するか。

医療機関にお金を払わない。

これが手っ取り早い方法です。実際、これは何年もかけてじわじわと進められています。

お金を払わないというのは、医療機関への未払いがあるというわけではなく(それはさすがにヤバイ)、診療報酬を厳しくしているということです。

診療報酬とは、保険医療機関が医療行為やサービスを行ったことに対して支払われる報酬のことで、診療行為ごとに厚生労働大臣が金額を設定しています。

その報酬額は2年ごとに見直されていて、医療機関にとっては年々厳しい金額になっているのが実情です(全ての診療行為に対する報酬額が下がっているわけではないです)。

国「お金が入ってこないのであれば、出ていくお金を減らせばいいじゃない!」

ある統計では、その影響で、日本の病院の6割以上が赤字経営をしているとの結果が出ているそうです。お恥ずかしながら、私が所属している病院も含まれています。

引用:2024年度病院経営定期調査 概要版  https://www.hospital.or.jp/pdf/06_20241116_01.pdf

リハビリテーション専門職が一生懸命リハビリを実施して稼いでも、診療報酬が厳しくなっていたり人件費が上がっていたりして、本当に利益が上がらないんです。

病院って儲かっているんでしょ?

病院で働いているからお給料は高いんでしょ?

と言われることはよくありますが、悲しいことにそんなことはありません。基本的には医療機関における治療の金額は国が設定しているので、ぼろ儲けなんてことはできないんです。

つまり、国民が医療費の自己負担額を増やすことに同意してくれないと、病院の経営はどんどん厳しくなっていくんです。

患者さんやご家族は、いい治療やホスピタリティを求めますので、医療従事者はそれに応える努力をしなければなりません。それがやりがいであるのも事実です。

ただし、それはボランティアではありません。医療従事者にも生活があります。それ相応の対価をいただかないと仕事は続けられません。

そんな中、サービスに対する支払いを拒否する、自己負担額の引き上げに反対するのは、カスタマーハラスメントなのではと私は思っています。

そして医療費の締め付けが厳しくなれば、病院自体の存続も危ぶまれます。そうなって困るのは、医療を必要としている人、つまり自己負担額の引き上げに反対している人やそのご家族なのでは。

実際のところ、自己負担額の引き上げに関する利害関係や主張等の関係性は、ここで私が書いたような単純な構図ではもちろんありません。

患者さんやご家族にも様々な理由があって、抗議活動に参加したり署名をされたりしたのだということも重々承知しています。

カスタマーハラスメントであるというのも過度な表現であるとは思っています。

ですが、各種報道から受ける印象と医療従事者から見える景色は少し違っていて、このような考え方もあり、医療業界が厳しい状況にあるということも理解していただけるとありがたいなと思います。

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